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このブログでは同人誌「プラスマイナス」に掲載された島野律子の作品を紹介しております。 同人誌「プラスマイナス」とは? 紙媒体で発表可能な作品であれば、なんでもOK。 体裁は文庫サイズコピー誌20ページ。隔月(奇数月)発行。偶数月には会員からのアンケート・おたよりを中心にしたペーパーを発行しております。 興味をもたれた方は以下の「弱拡大」内メールフォームよりご連絡お願いいたします。  

枝の渡す [短歌]

それぞれの枝にある色引きのびて振り向く獣の夢を見ている

高い窓だからふるえる葉の中の花を見下ろす影からすすむ

肩先のかげりが支える切り返す緑の乱れへ切りこむ飛行機

近づいた月につぶれる屋根の眼の苛苛がさす産毛をはがす

尽きるはずの道をたたいて色あせる枝の門口踏まないように

壁を登る光の楽しみ吸いあげて葉が色をなす空まで戻る

かぎあてた指先すべる川までの時間に埋まる雨を惜しんだ

澄むように掲げた指をつかまれた川の上の風細く引き継ぐ

むき出しの腕をのばして引き上げた夏草に落ちる夢の髪束

吹きぬけるすべのない糸折りあってなだらかな影は追いつくせるか

目黒川には鯰が 続 [エッセイ]

 標本が来るより先に、紹介先での初診があります。てきぱきと受付も担当している事務の方が電話して、ちゃっちゃと申し込んでいただいてますよ。翌週火曜日午後二時半予約がとれたと。早い早い。検診専門のクリニックですから、このあたりもう、患者に有無を言わせない勢いがあります。施設目標は、死因から「乳がん」をなくすこと。患者の躊躇などどーんと押しやれです。いやもう、楽させていただきました。初診外来は火曜日だけらしく「早く取れましたね、運が良かったですよ」と喜ばれてしまいました。「とにかく混むんでね、弁当もっていくような感じですよ。気長に待ってください」はい。まあ、その状況は慣れっこですんで。いやもう午後なら半日待てば済むんだし、大したことはないです。ええ。とか、素で思う自分は間違っているような気もしますが、なんだかんだで腕のいい医師というかそういう評判を取れる医師は数が限られております。で、混みまくる。当然です。特に初診外来はひとりにどれだけ時間掛かるか読めないし、予約通りこなせるなんてありえません。それでも予約時間に遅れたりすると、容赦なく飛ばされたりして、こっちは時間厳守しかない。とは言え、きっと遅れたことにも気づかれないほど押し押しでしょうが。うーん仕事丸一日休むしかなさそうだなあ。まず初診受付からしなきゃならないし、初めての病院は勝手がわからないので早め早めにしなければ。しかし、それはそれとしてその前に中目黒まで行かねばなりません。というか、前回も書いたとおり中目黒ってどこですか。どうやって行き着いたらいいんでしょうか。当惑している自分の前に病院のサイトを印刷したと思しい地図が差し出されました。
こ、この手回しのよさ。「駅から大して遠くないですからね、まあ初めはタクシー使って下さい。ワンメーターでいきますよ」そうですか。でもタクシーは簡単に捕まるんでしょうかねえ。
 さて初診時に治療計画が具体化するのかどうかもわからない。いきなりオペとなっても、空きがあるんだかどうだか。いえいえ、こんなにでかくなるまで放置してたうっかりものの患者ですんで、腕利き医師の意見に意見したりは致しませんですよ。ええ。でも十一月はダンス公演のチケットとりまくってるんです。特に、ナチョ・ドゥアトの「ロミオとジュリエット」はどうしても見たい。なんで、この作品なんだよは置いといて、どうしても見に行きたいんですよ。と、このときは本気で心配しておりました。いまとなってはもう甘い、甘すぎるんだよおまえは、ではありますけれども。
 「えきすぱーと」で中目黒駅を検索。おお、こんなところにとしみじみ見入ってしまいました。遠い、遠いよ。これからずっとこんなとこまで通院するのか。家にいながらぐったり車酔い気分になりました。そして予約日、立川で乗り換え、新宿で乗り換え、渋谷で乗り換え、中目黒着。どうして、立川はまあ置くとして新宿も渋谷もこうまで乗り継ぎに消耗させられるんでしょうか。えんえんえんえんとさ迷った記憶ばかりが残ってますよ。そしてタクシーも使ったよ。行きも帰りも。行きなんていきなり逆方向で客待ちしていたタクシーに乗り込んでしまい、物凄く迷惑そうな顔されましたよ。交通費だけで三千円越え。ああ。初診受付は、紹介状を持っていますので総合窓口の別枠にて行い、なかなかいい感じに診察券など発行していただいたため、おおう、予約時間までまだ小一時間あります。そして予想通り予約が二時半とはいえ、そんなもん守られるわけない。外科外来の待ち合わせの椅子に座りながら、まあ四時すぎたら一応受付に問い合わせようと決心しておりましたら通じたようで、呼ばれました、四時五分前に。前日予定より早くクリニックから預かってきた自分の病理標本を、あまりの忙しさから挙動不審一歩手前に来ている、ものすごく既視感バリバリの初診担当外科部長に手渡しました。そしてやっぱり一から検査やりなおしかあ。この病院も外来採血担当は検査技師の模様です。そして採血始めてから日が浅そうです。アル綿で消毒後、いきなり内側の静脈から採りたそうにされ「あっその血管薄いんで真ん中からお願いします」と指示してしまいました。ここを、ディスポで狙うなよー。事故起きたらどうするんですかー。と他人事ながら明らかにやる気ないおっさん技師が心配になりましたです。そしてまた既視感というか、よくある建て増しに継ぐ建て増しのため一本道のはずの廊下が全く見通せなかったりする通路をどきどきしながら歩き回り、マンモとって写真持参の上なんだか案内までついて診察室まで戻りました。そこで超音波も当然とりまして。こう言ってはなんですが、そのせんせいちょっとエコーは下手かも。脇のリンパ節画像に出すのは確かに難しいですけども、写真に落とした患部の画像も、こう、いい加減というか、そして、そのそこで大きさ測るんですか。いえ、その。そしてさらにCT検査の手配をしますからとまた待合の椅子で待たされまして、呼ばれて行ったら、今度はやたらと若い医師の診察室に通されました。しかし診察時に「はじめまして、○○です。宜しくお願いします」なんて滑舌よく話されるの、初めて聞いた気がします。お若い方は礼儀正しいです。「おいくつですか」と口を滑らせないために全精力を使い果たした気がします。CT予約は、三週間先の午前十一時十分ですと。この十分てのが物悲しいです。そーか十分刻みなのか。パソコン画面上をちらっと見ましたら、ほんとに運よくたまたま空いていた様子です。予約日の三日後までは一杯になってますよ。その次はもう月が変わっていて確認できない。どこも
かしこもなあ。ちなみにガンはもちろん状態にも寄りますが、大急ぎで検査をして即治療という病気ではありません。ここらへん、患者意識とのギャップで、前の職場では、よく患者さまから怒られました。つまり今後の治療予定はすくなくとも三週間以降にならないと立ちませんです。そしてオペもきっとつめつめなんだろうと思われます。入院はいつになるやらです。お陰でナチョの公演には、つつがなく通えることとなりました。ここ一番でついている自分にちょっとほくほく致しました。

タグ:目黒

目黒川には鯰が [エッセイ]

 我が家から、電車で二十分ほど離れた場所に乳がん検診専門のクリニックがあります。失業時にネットで検索して見つけたのですが、検診を受ける前に就職も決まり、なんとなくそのままにしてしまいました。今年薄着になり始めた頃、胸のしこりに気づいてさえもなお、放置していたのです。理由については、我ながらどうかと思う、実に簡単な事情でして。数年前うつ病になった当時の職場で、乳がん検査は業務の一部だったのです。
 その頃は、乳がん関連の知識を一から頭に入れるため、結構な量の資料を手に入れ勉強しようとしていました。すでに、いろいろとうつの徴候は現れておりまして、特に新しい知識を頭に入れることが、ほんとうに困難になってしまい、読んでも読んでも資料の内容は上滑りして身につかず、時間だけがするする消えていく。実技の習得はお話にならないペースで、つまらないミスをなくすことがどうしても出来ない。新しい職場に移ってのことだったので、この状態はどうみてもおかしいと自分で気づくしかなかったわけなんですが、もともと、そうテキパキと仕事をこなせるタイプでもなく、全く分野の違う仕事をこんな齢で覚えるんだから、しかたないと、自分にうんざりしていたわけです。結局うつ病と診断され、その部署を離れることになり、集めた資料は次に移動してきた後輩にすべて引き渡してしまいました。その後退職もし、いろいろけりをつけた気でいたんですが、まーだ収まりがついていなかったわけです。自分の中では。いろいろ、しょうもないです。
 乳がんの年齢別発生率をみると、三十代後半から増加していき四十代後半にピークがきて七十代までそれほど減っていきません。わたしのような妊娠歴のない四十代前半女性なんて、危険のど真ん中です。女性の約二十人に一人が乳がん、四十を越えたら二年に一回の乳がん検診を、とは言われているものの、日本での乳がん検診受診率はまだまだ低い水準です。乳がんは外科医が診断・治療するのですが、自治体の検診では婦人科の医師が担当していたりして、そのあたりの取り組みも結構いい加減です。乳がんは身近な病気の割りに基本的な知識の普及は進んでないよなあ。最近やっと盛んに広報活動が行われておりますが。
 で、自覚症状がありますので保険適用となり、まずはマンモグラフィという乳房専門のレントゲン撮影装置で画像を撮りました。台に乗せた乳房を板で押してどんどん平たくしていくわけですが、これは三十代の女性には確かに辛そう。乳腺がしっかりしているうちは、この検査ではあまりよく診断は出来ません。左右上下とつぶしてそれぞれ二枚ずつ合計四枚の写真を撮ります。「痛いよー」と噂で聞いておりましたが、ほほほ。もうすっかりやわになったわたしの乳房は何の抵抗もせず、うすーくひらたく延びていきます。らっきー。ただ、しこりの位置がはずれのほうにあるので、これで写るか? ちょっと心配ではありました。お次は超音波検査。マンモグラフィと違って、モニターに画像がでますのでリアルタイムに観察できます。医師が自らプローブを握り、触診で確認したしこりの像をささっと出します。せんせい、すごい腕いいっすねえ。感心しながらモニターを眺めておりましたが、えーと。しこり乳腺からはみだしてませんかあああ? そしてあのキラキラは石灰化では。うひょー。「ああ、これはよくないですねえ」ばしっとモニター画像の印刷ボタンを押しながらせんせいはおっしゃったわけですが、ええ、ほんとよくないですよねえ。「隠してもしかたないんでね、確定ではありませんが、まず間違いなく癌ですよ」翌週病理検査の予約を入れますと、都合のいい日にちを訊ねられましたが、モニタの予定表はもう一杯で、いえ、そちらにお任せいたしますとしか実質言えない状態でした。ほんとに忙しいんだなあ。「もうこの画像見ただけでね、どの種類の乳がんかわかりますがね」ということは、典型像ということでは。これは、本屋によって超音波診断の本を立ち読みだなあ。写真は一枚しか印刷されていないので、わたしが持っては帰れない。ということは、この画像を覚えていかないとどうにもできません。あわわわ。乳がんの画像診断のポイントなんてすっかり忘れ、いえ、そもそも覚えることもしませんでしたよ。とりあえず腫瘍の中の石灰化と、だいたいの縦横比をチェックしてすごすごと引き下がったのでした。しかし、針生検か。現場に何度か立ち会ったことがあるのですが、ものごっつ痛そうに見えました。いえ、局所麻酔をするので痛みはないはずではありますが、でも局所麻酔するために結局針を刺すわけで、それも結構深々と。うーん、あんまりやりたくない検査だよなあ。乳がんと診断されたショックは、一週間後の病理検査への恐怖にすっかりかすみがちでした。そして、自分がまったく乳がんの知識を持っていないということに、つまりは、闘病の覚悟を決める準備がこれっぽっちもできていない状態だということ
に、まだまだ頭が回っていっていなかったのでした。

「プラスマイナス」114号掲載
タグ:目黒

 名前が見えるようにうねって [詩]

濃い夢がはりつく木の肩をなでて
梳きいれた水ののむしずみこんだ声を埋めた
穴の開いた橋の手前 泥まみれにこするかたくなった
音からたれる薄い汗が網になって
すくい上げるぬらしてはいけない布の縫い合わせる水辺から
捨てられた砂を噛んで
はがせない糸をわたす息をいつまではけるか
ためしている居場所だと思うしおれかけたつぼみの湿気で
今日だけの入り口から夜には来ない脈が波打つ
空にも味あわせる肌のかけらと
呼びもどす影をふみにじるまでは


プラスマイナス128号掲載
タグ:

かれた熱が引ききって流れていくので

暮れかけた道のうねる粒だった家たちは固まりついて
少しずつ離ればなれにうずくまる
影はうすくほそくたなびいて消えそうに川の上をまたぎこしても
風の根本にまかれて閉じる逆むけの肌で押し返して
来るな来るな
かじかんだ頸に泣きつく声みたいにやぶける
火伏せの祈願が山の底を抜いたのに
気づかなかったきれいな枝を選んで入る
手応えのない坂だけがのびる水際
くずを掬って漉いている溶けた肉でも食べたそうに
鳥みたいに羽ばたいて曲げる指から
にじんでいる冬の髄の液をかぶって
みんなぼやぼやと明るんでは
一つきりの村になって折りたたんだ雲の薄皮をほんとうに
噛んでいた夜まで遠くにあるように
乾かされて広げた手がちぎれて飛んでいる
黒い土のすきま落ちていればいいのに
くるぶしをつかんで掘り返した山をあびても

同人誌「プラスマイナス」126号掲載

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